小野高漢詩校歌

創立前史  第1章 もう一つの創立記念日 その6

夢破れて「希望」あり

 旧制中学校を小野新町方部へ…その夢は破れた。すべてを失ったかと思えたが、しかし、地域に残ったものがあった。それが、蚕業講習所(講習部)であった。

 大正10年(1921年)、10月25日、旧制中学校の小野新町方部への誘致運動が盛り上がっている頃(小野新町字仲町の新開座において、田村中学期成同盟会が盛大に開催された2日後)、町会においてひとつの決議がなされた。

(町会決議)

 県営養蚕講習所を本町所在・原蚕種製造所に建設せらるの場合は、其施設費に対し、金壱万円を当町に於て本部へ寄附するものとす

     議決  小野新町長  佐藤 善弥

 県営蚕業講習所とは、この時すでに11月より開所が決まっていた、「福島県営原蚕種製造所小野新町支所」に設置が期待されていた「講習部」の事を指す。この原蚕種製造所の支所に蚕業を学ぶための講習所をつくる場合には、小野新町として金1万円の寄附をおこなう事を決定したのである。それでは、そもそも「原蚕種製造所」とは何なのか? 小野新町郷土史から紐解いてみる。

福島県蚕業試験場・小野新町支所

 (小野新町郷土史より)

   福島県は大正元年原蚕種製造所設置の計画をたて、県下に置いて最も蚕種業の盛んな伊達郡梁川町に設置、大正3年度(1914年度)より事務を開始し、同年春蚕より原蚕種の製造配附、並に一般蚕業に関する試験調査をおこなっていたが、時代の機運とともに更に原蚕種製造所拡張の必要を感じ、大正7年(1918年)通常県会に於て支所の設置の件を可決し、夏秋蚕の本場である田村郡小野新町に設置場所に決定し、大正8年度(1919年度)から建設の工事が始まった。

  • 建物および附属建物敷地   1町24歩   町有志からの寄附
  • 桑園敷地          2町      町有志からの寄附
  • 桑園敷地            5反歩   借地     
  • 工事費        56,550円99銭

 とある。

    大正  9年(1920年)4月1日事務開始。

    大正10年(1921年)2月迠に事務室、蚕室、貯桑庫、実験室、消毒室、肥料室、

              物置其他の附属建物等総坪424坪餘の工事を完成。

    大正10年(1921年)11月3日開所場式。

 

 大正7年に県会において小野新町に設置する事が決まっていた「県営原蚕種製造所」の支所は、大正8年(1919年)より工事が着工しており、この時すでに、11月より開所する事が決まっていた。開所を祝うための協賛会が組織され、大正10年(1921年)11月1・2・3日の3日間に亘って、盛大な祝賀行事が行われた。 

(福島民報記事)

  • 1日  田村・石川二郡連合蚕糸品評会
  • 2日  蚕糸業大講話会
  • 3日  午前10時 開庁式にて宮田知事の祝辞演説。500名参加、町内国旗を掲揚し、万国旗を交犬叉、昼は仮装行列、夜は提灯行列で興を添へ歓喜

 この「福島県原蚕種製造所」は、翌・大正11年(1923年)11月21日からは、法令により、福島県蚕業試験場小野新町支場と改称するようになる。

 このように、「原蚕種製造所」そのものは、小野新町と三春町の田村中学争奪戦とは無関係に小野新町への設置が決まっていたのだが、そこに「講習所」を設置する事については、ある政治的な思惑が働いたようだ。と言うのも、すでに明治40年(1907年)より三春町に「田村郡蚕業講習所」という「郡営」の講習所が開設されていたからである。

田村郡蚕業講習所

 「田村郡蚕業講習所」がどのようなものであったのか、大正2年(1913年)の、田村郡蚕業講習所生徒募集要項から見てみよう。 

(大正2年度 田村郡蚕業講習所生徒募集要項)

 

1.講習期間   4月1日より7月20日迄

2.講習科目   <講義>

         修身・農業大意・蚕業通論・養蚕法・栽桑法・製糸法・

         蚕体解剖生理論・蚕種繭生糸審査法・蚕糸業法規       

         <実習>

         春蚕飼育・蚕種製造・蚕病消毒・殺蛹乾繭・蚕体解剖・顕微鏡使用・

         製糸及屑繭整理・蚕種繭生糸審査・桑園管理

3.募集人数   男生及女生を通じて約50名

4.生徒の資格  年齢15歳以上にして尋常小学卒業若くは之と同等の学力を有するもの

5.寄宿及学費  生徒は講習所に寄宿せしむるも、養蚕実習期の外は通学することを得

         学費は生徒1人に付、金5円の補助金を支給せらるるを以て、1期間

         全部寄宿するも、金12円内外にて足るべし

6.修業後の資格 本所を3ヶ年に亘りて修業したるものは、蚕種製造者または蚕種製造

         管理者たるの資格を有す

 講習所規程は大正5年に改正されており、講習所の学期は第1学期が4月~9月、第2学期が10月~3月となっている。大正2年の第1学期の募集は男女50名であったが、大正5年には男女40名に縮小されている。大正10年当時の募集定員の男女比と員数は不明である。

 

 だが、その内容からはかなり本格的かつ実践的な学びの場であった事がうかがえる。このような講習所を、小野新町に新設される「福島県営原蚕種製造所」の支所に併設しようという動きがあり、小野新町はそのような場合には、町での指定寄附をする議決をした、という事だった。それは、やがて激しく小野新町方部が要望する「田村中学校」の”替り”としての思惑が働き始めたのだった。

(つづく)

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